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ニットセラピーとは?編み物がもたらす効果を論文をもとに解説!

記事作成日:2025.03.14
「趣味の時間を大切にしたい」「毎日のストレスを解消したい」「自分のメンタルヘルスケアを考えたい」。そんな悩みを抱えている方に朗報です。実は、編み物には心と体に良い効果があることが科学的に証明されています。特に近年注目を集めているのが「ニットセラピー」です。本記事では、最新の研究結果をもとに、ニットセラピーの効果や実践方法について、詳しく解説していきます。
ニットセラピーとは?編み物がもたらす効果を論文をもとに解説!

目次

ニットセラピーとは?

ストレス社会といわれる現代において、心の安らぎを求める人が増えています。そんな中、注目を集めているのが「ニットセラピー」です。編み物を通じて心を落ち着かせ、ストレスを解消する効果があると言われているこの手法は、欧米ではすでに研究も進んでいます。

1-1ニットセラピーの意味

ニットセラピーとは、編み物を通じて心身のリラクゼーションやストレス解消を図る療法です。一目一目、針を動かしながら編んでいく作業は、手を動かし、目の前の作品に集中することで、日常の喧騒を忘れ、心の安らぎを得ることができます。 このセラピーの特徴は、創造的な活動でありながら、同時に心を落ち着かせる効果があることです。編み物は単なる趣味や手芸の枠を超えて、心の健康を支える重要な手段として注目されています。

1-2ニットセラピーで得られる効果

詳しくは後述しますが、ニットセラピーで得られる効果を簡単に見ていきましょう。ニットセラピーがもたらす効果は多岐にわたります。まず、編み物をする際の規則的な手の動きは、脳内でセロトニンという神経伝達物質の分泌を促進します。セロトニンは幸福感や安らぎをもたらす物質として知られており、心の安定に重要な役割を果たします。 また、編み物に集中することで、不安やストレスから心理的に距離を置き、瞑想に似た効果も得られます。さらに、作品が完成したときの達成感は自己肯定感を高め、精神的な充実感をもたらすことができます。このように、ニットセラピーは心理面から身体面まで、総合的な効果が期待できる活動なのです。

ニットセラピーの歴史

編み物がどのようにしてセラピーとして認識されるようになったのか、その歴史的背景について見ていきましょう。

2-1編み物療法の起源

編み物が治療的な効果を持つという認識は、20世紀初頭のイギリスにまで遡ります。第一次世界大戦中、負傷した兵士たちの心の癒しとして編み物が導入されました。手を動かす作業を通じて、戦場でのトラウマに苦しむ兵士たちの精神的な安定を図ったのです。 この試みは予想以上の効果を上げ、その後、病院や療養施設でも取り入れられるようになりました。当時は気晴らしとして始まった活動でしたが、患者の心理状態や集中力の改善に役立つことが経験的に認識されていきました。このような実践の積み重ねが、現代のニットセラピーの基礎となっています。

2-2現代におけるニットセラピーの発展

現代のニットセラピーは、科学的な研究と実践を通じて、その効果が徐々に明らかになってきています。特に1990年代以降、ストレス社会が深刻化する中で、手軽に実践できるセラピー手法として注目を集めるようになりました。従来の医療や心理療法を補完する手段として、病院やカウンセリング施設でも導入されるケースが増えています。 また、インターネットの普及により、編み物を楽しむコミュニティが世界中で形成され、その治療的効果に関する情報共有も活発に行われています。研究面でも、脳科学や心理学の観点から、編み物が心身に与える影響について、科学的な検証が進められています。このように、ニットセラピーは昔ながらの手工芸から、現代的なセラピー手法へと進化を遂げているのです。

ニットセラピーの日本と欧米の違い

編み物の療法的な効果に対する認識は、日本と欧米で大きく異なっています。それぞれの文化的背景や捉え方の違いについて見ていきましょう。

3-1日本における編み物の位置づけ

日本では、編み物は主に趣味や実用的な手芸として認識されてきました。編み物を通じてマフラーやセーターなどの実用品を作る、あるいは贈り物として手作りの温かみを伝える手段として親しまれています。 また、編み物サークルなどのコミュニティ活動としても広く普及していますが、そのほとんどが趣味の集まりとして位置づけられています。近年では高齢者施設などで、脳の活性化や手先の運動として取り入れられることもありますが、セラピーとしての体系的な活用はまだ始まったばかりの状況です。

3-2欧米でのセラピー的アプローチ

一方、欧米では編み物のセラピー効果が広く認知され、医療やメンタルヘルスケアの現場で積極的に活用されています。特に、ストレスや不安の軽減、うつ病の補助療法として、その効果が注目されています。 医療機関やカウンセリング施設では、専門家の指導のもと、体系的なプログラムとして編み物療法が実施されています。また、研究機関による科学的な効果検証も活発に行われ、その結果が医療現場にフィードバックされています。

3-3文化的背景による効果の違い

このような違いが生まれる背景には、文化的な要因が大きく影響しています。欧米では、手仕事を通じた精神的な癒しという考え方が古くから存在し、それが現代のセラピーとして発展してきました。特に、個人の精神的なケアを重視する文化が、編み物のセラピー効果への注目につながっています。 一方、日本では手仕事の実用性や芸術性が重視される傾向にあり、セラピー効果はあくまでも副次的なものとして捉えられてきました。しかし、ストレス社会が深刻化する中で、日本でも編み物のセラピー効果に対する関心が徐々に高まってきています。

ニットセラピーの主な効果

編み物を行うことで得られる効果について、科学的な視点から解説していきましょう。

4-1認知機能の向上

編み物が脳に与える影響は、神経科学の観点から説明することができます。編み物をする際、手先を細かく動かすことで、脳の複数の領域が同時に活性化されます。特に、運動機能を司る運動野、目と手の協調を担う前頭前野、そして記憶や感情をコントロールする大脳辺縁系が活発に働きます。 このような脳の活動は、認知機能の維持・向上に貢献します。また、編み物のパターンを理解し実行するプロセスでは、計画性や問題解決能力も養われます。編み図を読み解き、それを実際の動作に変換する作業は、空間認識能力や情報処理能力のアップにもつながります。このように、編み物は脳の様々な機能を刺激し、総合的な認知能力の発達を促進する効果的な活動となっています。 心が落ち着く 編み物と瞑想には、意外にも多くの共通点があります。編み物をしているときの心理状態は、瞑想時の状態に非常に似ています。一定のリズムで針を動かし、目の前の作業に集中することで、余計な思考が自然と減少し、マインドフルネスの状態に入ることができます。マインドフルネスとは、将来でも過去でもなく、今ここの体験を評価することなく、ただ観察していることです。近年研究が進んでおり、今を意識することでメンタルヘルスが改善するというデータが数多く報告されています。 瞑想と同様に、編み物中は呼吸が自然と整い、心拍数が落ち着き、リラックス状態へと導かれます。さらに、編み物には瞑想にはない創造的な要素が加わることで、より深い満足感が得られるという特徴があります。

4-2不安の軽減

手を動かすリズミカルな動作は、脳内でセロトニンやドーパミンといった神経伝達物質の分泌を促進します。これらの物質は幸福感や達成感を感じる際に分泌され、気分の安定や向上に重要な役割を果たしています。 特にセロトニンは「幸せホルモン」とも呼ばれ、気分を安定させる重要な役割を果たします。編み物の際のリズミカルな動作と集中によって、自然とセロトニンの分泌が高まり、心の安定がもたらされます。 このセロトニンの増加は、うつ症状の軽減や不安感の緩和に効果があるとされています。また、セロトニンは睡眠の質を向上させる働きもあり、良質な睡眠を通じて心身の回復を促進します。さらに、セロトニンは消化器系の健康にも関与しており、体全体の健康維持にも貢献しています。

4-3満足感や充実感につながる

編み物には、心理学でいう「フロー状態」を生み出す効果があります。フロー状態とは、活動に完全に没入し、時間の感覚を忘れてしまうほど深く集中している状態を指します。編み物のリズミカルな動作と適度な難易度は、このフロー状態を引き起こす理想的な条件を作り出します。編み目を一つ一つ作っていく過程で、徐々に外界への意識が薄れ、編み物そのものに意識が集中していきます。 この状態では、日常のストレスや悩みから自然と解放され、深い満足感と充実感を味わうことができます。さらに、フロー状態に入ることで創造性が高まり、編み物のパターンや色使いにも新しいアイデアが生まれやすくなります。このように、編み物を通じて得られるフロー体験は、精神的な充実感と創造的な喜びをもたらす重要な要素となっています。

論文から見るニットセラピーの効果

ニットセラピーの効果について、2つの重要な国際研究の結果を詳しく見ていきましょう。これらの研究は、編み物が心身の健康に与える影響を科学的に検証したものです。

5-1個人的・社会的幸福感への影響

Riley, Corkhill, & Morris(2013)の研究では、創造的で意味のある活動が健康と幸福感にポジティブな影響を与えることがわかりました。この研究では、世界中の3,545人の編み物愛好家を対象にオンライン調査を実施しました。参加者の大半は女性で、日常的に編み物を楽しむ人々でした。 研究結果では、編み物をする頻度と心の安らぎや幸福感との間に有意な関係が見られました。特に、頻繁に編み物をする人ほど、認知機能が高いことが報告されています。 また、グループでの編み物活動は、幸福感の向上や社会的なつながりの強化、コミュニケーションの改善に大きな効果があることが示されました。この研究は、編み物が心理的・社会的な利点をもたらし、生活の質の向上に貢献できることを科学的に実証しています。

5-2ウェルビーイングにもたらす効果

Burns & Van Der Meer(2020)の研究では、世界87カ国から8,391人の回答を得て、かぎ針編みが心身の健康に与える影響を調査しました。参加者の99.1%が女性で、41歳から60歳の年齢層が49.5%を占めていました。研究結果によると、かぎ針編みを始める主な理由として、 ・創造性の発揮(82.1%) ・リラックス(78.5%) ・達成感(75.2%) が挙げられています。特筆すべきは、編み物前後での気分の変化で、編み物をすることで参加者の89.5%が落ち着きを感じ、82%が幸せを感じ、74.7%が有用感を得たと報告しています。 さらに、気分スコアは編み物前の4.19から編み物後には5.78へと顕著な改善が見られました。自由記述の分析からは、健康上の利点、編み物のプロセス、個人的なつながり、社会貢献、オンラインコミュニティという5つの主要テーマが浮かび上がりました。この研究は、かぎ針編みが悲しみや慢性的な病気、痛みなどの管理に活用され、個人の幸福感の向上に貢献できることを示しています。

ニットセラピーのやり方

ニットセラピーを始めるにあたって、効果的な実践方法について解説していきます。

6-1セラピー効果を引き出す基本姿勢

ニットセラピーの効果を最大限に引き出すためには、正しい姿勢と環境設定が重要です。まず、背筋を伸ばして座り、肩や首に余計な力が入らないようにリラックスした状態を保ちましょう。編み物をする際の視線は、やや下向きになりますが、首を極端に曲げすぎないように注意が必要です。 また、適度な明るさの場所で作業することで、目の疲れを防ぐことができます。心の準備も大切で、「今この瞬間を楽しむ」という意識を持つことで、より深いリラックス効果が得られます。焦らず、マイペースで進めることが、セラピー効果を高める秘訣です。

6-2環境をしっかりと選ぼう

ニットセラピーを行う環境は、効果に大きな影響を与えます。静かで落ち着ける場所を選び、適度な温度と湿度を保つことが望ましいです。照明は、手元が十分に明るく見える程度に調整し、目が疲れないよう配慮します。タイミングについては、一日の中で最も気持ちが落ち着く時間帯を選びましょう。 多くの人は、朝の静かな時間や、仕事や家事が一段落した夕方以降に実践しています。一回の作業時間は20分から1時間程度が適切で、疲れを感じたら適宜休憩を取ることが大切です。心地よい音楽を流したり、お気に入りの飲み物を用意したりすることで、よりリラックスした環境を作ることができます。

編み物の効果を高める方法

ニットセラピーの効果をさらに高めるための具体的な方法について解説していきます。

7-1リラックス効果を最大限に引き出すコツ

効果的なニットセラピーのためには、心身ともにリラックスした状態を作り出すことが重要です。まず、呼吸を意識することから始めましょう。編み目を一つ編むごとに、ゆっくりと深い呼吸を心がけます。この時、肩や首に力が入りすぎないよう注意が必要です。また、環境づくりも大切な要素です。 適度な明るさの空間で、心地よい音楽を流したり、アロマの香りを楽しんだりすることで、よりリラックスした雰囲気を作ることができます。編み物に集中することで、自然と雑念が消え、マインドフルネスの状態に近づいていきます。このような環境と意識の調整により、ニットセラピーの効果を最大限に引き出すことができるのです。

7-2グループ活動の活用法

Riley, Corkhill, & Morris(2013)の研究でも示されているように、グループでの編み物活動は、個人での実践以上の効果が期待できます。まず、同じ趣味を持つ仲間との交流は、新しい技術や知識の習得だけでなく、心理的なサポートにもつながります。 互いの作品を見せ合い、アドバイスを交換することで、モチベーションが高まり、創造性も刺激されます。また、グループ活動では、他者との会話を楽しみながら編み物に取り組むことで、自然とリラックスした雰囲気が生まれます。 に初心者の場合、経験者からのアドバイスを受けられることで、スムーズに技術を習得できる利点もあります。定期的なグループ活動への参加は、社会的なつながりを深め、メンタルヘルスの向上にも貢献します。

初心者向け編み物の始め方

これから編み物を始めようと考えている方に向けて、基本的な準備から具体的な始め方まで解説していきます。

8-1編み物を始める際に必要なもの

初めて編み物を始める方には、適切な道具選びが重要です。道具や材料は必要最小限から始めることをお勧めします。ここでは、ニットセラピーを始めるために最低限必要な道具と材料をご紹介します。また、初心者の方が失敗しにくい選び方のポイントについても解説していきます。 <必要な道具> ・棒針(4号〜6号)アクリル製または竹製 ・毛糸(中細または並太、アクリル100%) ・はさみ ・とじ針 ・目数リング(マーカー) ・メジャー ・編み方の説明書 これらの道具が揃えば、基本的な編み物を始めることができます。最初は使いやすさを重視して道具を選びましょう。特に毛糸は、明るい色で編み目が見やすいものを選ぶことをお勧めします。また、道具は使っているうちに自分に合ったものが分かってきますので、徐々にグレードアップしていけば良いでしょう。予算は3000円程度から始められます。

8-2基本的な編み方のステップ

編み物を始める前に、基本的な姿勢と手の使い方を理解しておくことが大切です。ここでは、初めて編み物に挑戦する方でも安心して始められるよう、具体的な手順を説明していきます。一つ一つのステップをゆっくりと確実に習得していきましょう。 <基本的な手順> 1.毛糸を左手に持ち、輪を作る 2.輪に棒針を入れ、毛糸を掛ける 3.掛けた毛糸を輪の中に通す 4.できた目を針に通して作り目完成 5.左手に針を持ち、右手で毛糸を掛ける 6.掛けた毛糸を古い目に通す 7.古い目を針からすべり落とす 8.これを繰り返して一列を編む 9.最後の目まで編んだら針を返す 10.同じ要領で次の段も編んでいく 基本的な技術を身につけることで、様々な作品に挑戦できるようになります。最初は少し難しく感じるかもしれませんが、繰り返し練習することで必ず上達します。特に作り目と表編みは、編み物の基礎となる重要な技術ですので、丁寧に練習することをお勧めします。まずは10cm四方の四角い作品を編むことから始めてみましょう。

まとめ

現代社会では、多くの人がストレスや不安を抱えています。そんな中、ニットセラピーは手軽に始められる効果的なストレス解消法として注目を集めています。本記事で紹介した研究結果が示すように、編み物には科学的に実証された心身への良い効果があります。編み物後の気分改善が数値で示され、グループ活動による社会的な効果も報告もなされています。 編み物を始めるのに、特別な準備は必要ありません。本記事で紹介した基本的な道具を揃え、リラックスできる環境で始めることができます。まずは簡単な作品から挑戦し、徐々にステップアップしていくことをお勧めします。心の健康のために、ぜひニットセラピーを日々の生活に取り入れてみてはいかがでしょうか。

日本インストラクター技術協会編集部
インストラクターの専門性を高めるためや地位向上を目的とした団体である日本インストラクター技術協会(JIA)編集部が運営するコラムです。
美容・健康・ボディケアの資格の筋トレインストラクター、シェイプアップインストラクターや骨格診断士。心理カウンセラー資格のメンタル心理インストラクター、子供心理カウンセラー®、音楽療法カウンセラーや行動主義心理アドバイザー®など様々な資格を認定しています。
日本インストラクター技術協会編集部