イングリッシュガーデンは、整然とした幾何学的なデザインよりも、自然の風景を模した庭園スタイルです。ここでは、その魅力や特徴について詳しく見ていきましょう。
イングリッシュガーデンの起源は18世紀のイギリスにさかのぼります。当時主流だったフランス式庭園の幾何学的なデザインに対して、イギリスではより自然な風景を取り入れた庭が生まれました。
女性園芸家ガートルード・ジーキルの「自然に生えているように植物を配置する」という考えが大きな影響を与え、現代のイングリッシュガーデンはこの自然への敬意と四季の変化を楽しむ姿勢を受け継いでいます。自然に咲き誇る花々の景観は、見る人に癒しと安らぎをもたらしてくれるでしょう。
イングリッシュガーデンの最大の特徴は「計算された自然らしさ」です。フランス式やイタリア式庭園が幾何学的な整然さを重視するのに対し、イングリッシュガーデンは自然の風景を意識します。
植物は直線ではなく不規則に配置し、花壇も曲線を用いた形にするのが一般的です。また、一種類だけでなく高さや開花時期の異なる様々な植物を混植することで、年間を通じて変化する景観を楽しめるのも大きな魅力です。これにより、四季折々の美しさを体験できる庭となります。
イングリッシュガーデンが世界中で愛される理由はシンプルです。まず、自然に近い景観がもたらすリラックス効果があります。都会の喧騒から離れ、心を落ち着かせる空間となるのです。
次に、厳格なルールがないため個性を表現しやすく、自分だけの庭を作れる自由さがあります。また、多様な植物が共存することで蝶や鳥などの生き物も呼び込み、小さな生態系を作り出すという環境面でのメリットもあります。四季折々に変化する姿は、一年を通して新しい発見と楽しみをもたらしてくれるでしょう。
イングリッシュガーデンを作るには、いくつかの基本的なステップがあります。ここでは、初心者でも取り組みやすい方法について説明します。
イングリッシュガーデンの第一歩は庭の環境を理解することから始まります。日当たりや風通し、土壌の状態をチェックし、これらの条件に合った植物を選びましょう。
まずは主要な植物(背の高いものや樹木)を配置して庭の骨格を作り、次に中程度の高さの植物、最後に低い植物を植えていくとバランスが取りやすくなります。
花壇は直線的ではなく、ゆるやかな曲線を描くような形にすると自然な印象になり、イングリッシュガーデンらしさが増します。
イングリッシュガーデンの美しさを引き立てる重要なポイントは色の選び方です。まずは庭のテーマカラーを決めましょう。パステルカラーなら柔らかく落ち着いた印象に、ビビッドカラーなら明るく元気な雰囲気になります。
色相環を参考にすると、隣り合う色(類似色)の組み合わせは穏やかに、反対側の色(補色)の組み合わせはコントラストが生まれ互いの色が引き立ちます。
また、白や銀葉の植物を取り入れると、他の色を引き立てる効果があります。葉の形や質感も変化をつける要素として意識すると、より豊かな表情の庭になるでしょう。
イングリッシュガーデンを始めるには、基本的な道具と材料が必要です。これから庭づくりを始める方のために、最初に揃えておきたいものを紹介します。
まずは基本的な道具から準備しましょう。初心者でも始められるよう、必要なものを厳選しています。
園芸用手袋:
手を保護します
スコップとトロウェル:
植え付けや移植に使います
熊手とレーキ:
土を均したり落ち葉を集めたりします
剪定ばさみ:
植物の剪定や花がらつみに必要です
じょうろやホース:
水やりに使います
支柱:
背の高い植物を支えます
腐葉土や堆肥:
土壌改良に役立ちます
マルチング材:
雑草を防ぎ、土の水分を保持します
これらがあれば基本的な庭づくりを始めることができます。すべてを一度に揃える必要はなく、必要に応じて徐々に集めていくとよいでしょう。特に土づくりは植物の成長に大きく影響するので、腐葉土や堆肥を使って土壌改良からしっかり行うことをおすすめします。
イングリッシュガーデンを彩る植物選びは、成功の鍵です。ここでは、代表的な植物とその選び方について解説します。
イングリッシュガーデンの象徴とも言えるのがバラです。特にオールドローズとイングリッシュローズは、豊かな香りと優雅な花形で庭に華やかさをもたらします。
オールドローズは古くからある品種で香りが強く、イングリッシュローズはデビッド・オースチンが作り出した品種で古典的な美しさと現代バラの四季咲き性を兼ね備えています。
バラは日当たりと水はけの良い場所を好み、定期的な肥料と剪定が必要です。初心者には「アイスバーグ」や「ザ・フェアリー」など、病気に強く育てやすい品種がおすすめです。
イングリッシュガーデンには香りの要素も欠かせません。ラベンダーをはじめとするハーブ類は、見た目の美しさだけでなく香りでも庭を豊かにします。
ラベンダーは初夏に紫色の花を咲かせ、独特の香りを放ちます。日当たりと水はけの良い場所を好み、乾燥気味に育てると香りが強くなります。
他にもローズマリーやタイム、セージなどのハーブも取り入れると、料理にも使える実用性も兼ね備えた庭になります。ハーブは多くが丈夫で育てやすいため、初心者にもおすすめの植物です。
イングリッシュガーデンの魅力を一年中楽しむには、四季折々に花が咲く植物を組み合わせることが重要です。これにより、いつ訪れても美しい庭を楽しめます。
春には水仙やチューリップなどの球根植物、夏にはデルフィニウムやフォックスグローブ、秋にはアスターやキク、冬にはクリスマスローズやスノードロップが庭を彩ります。
また、常緑の低木や地被植物も取り入れることで、四季を通して緑を保ち、庭に安定感をもたらします。開花カレンダーを作って空白の季節がないように計画すると、一年を通して花のある庭が実現します。
グラウンドカバー植物は、雑草抑制や土の水分保持に役立ち、庭全体に統一感をもたらす重要な要素です。低く広がって地面を覆うこれらの植物は、イングリッシュガーデンに自然な雰囲気を加えます。
代表的なものにはアジュガ、クリーピングタイム、セダムなどがあります。アジュガは日陰でも育ち、春に青紫色の花を咲かせます。クリーピングタイムは香り豊かで踏んでも丈夫なハーブです。
セダムは乾燥に強く手入れが簡単で、岩場などに植えると自然な雰囲気を作り出します。これらを上手に配置することで、庭全体が調和のとれた美しい空間になります。
イングリッシュガーデンの魅力を最大限に引き出すためには、植物の配置や庭の構成が重要です。ここでは、美しく見せるためのレイアウトのコツを紹介します。
イングリッシュガーデンでは、計画された自然らしさを作り出すことが大切です。基本となるのは高低差を利用した植物配置で、背の高い植物を後ろに、中程度の植物を中央に、低い植物を前に置く、ボーダーガーデンの手法が効果的です。
また、植物の密度も重要で、適度な密度で時に植物同士が重なり合うくらいが自然な印象を与えます。色のバランスも考慮し、強い色は点在させ、柔らかい色を多用すると落ち着いた印象になります。白や銀色の植物を散りばめると、他の色が引き立ち、庭全体に調和とメリハリが生まれます。
イングリッシュガーデンに小道を設けることは、庭の魅力を高める重要な要素です。小道を上手に計画するための基本的な考え方をご紹介します。
まずは小道作りの基本から始めましょう。素材選びと形状が重要です。
・レンガや石、砂利、木材など自然素材を使う
・直線よりもゆるやかな曲線を描くように設計する
・小道の幅は一人が歩きやすい60〜80cmが目安
・小道の両側にはみ出すように草花を植える
・要所にフォーカルポイントを置く
・曲がり角には視線を引く植物を配置する
・歩きやすいよう踏み面は平らに整える
小道は単なる通路ではなく、庭を探検する楽しさをもたらします。曲がった小道は次に何があるかという期待感を生み、庭を広く見せる効果もあります。小道沿いにタイムやカモミールなどを植えると、歩くたびに香りが漂い、より豊かな体験ができるでしょう。小道の設計は庭づくりの初期段階から考え、見どころをつなぐ動線として計画することをおすすめします。
限られたスペースでもイングリッシュガーデンの魅力を楽しむことはできます。小さな庭を広く見せるテクニックを活用して、豊かな空間を作りましょう。
垂直方向の空間を活用するのが効果的です。フェンスやアーチにつる性植物を絡ませることで、平面だけでなく立体的な緑を楽しめます。
鉢植えを使えば配置を自由に変えられるので、季節に応じたレイアウト変更も可能です。また、ミニチュア版のボーダーガーデンを作れば、小さいながらも立体感のある花壇ができあがります。
厳選した少数の植物に絞って質を高めることも大切です。種類を多くするよりも、数種類の植物を美しく育てる方が、まとまりのある印象になります。
イングリッシュガーデンの美しさを長く保つためには、適切なお手入れが欠かせません。季節ごとのケアや病害虫対策について解説します。
イングリッシュガーデンを一年中美しく保つには、季節に合わせたお手入れが必要です。それぞれの季節で押さえておきたいポイントを紹介します。
春は成長期の始まりです。枯れた部分を取り除き、緩効性の肥料を施します。多年草の株分けや新しい植物の植え付けに適した時期でもあります。夏は水やりが重要で、特に鉢植えは乾燥しやすいので注意が必要です。花がら摘みを行うと、次の花が咲きやすくなります。
秋は来年に向けた準備の時期です。春咲きの球根を植えたり、落ち葉を集めて堆肥にしたりします。冬は植物の休眠期で、霜に弱い植物は保護し、落葉樹や薔薇などの剪定を行います。庭全体の計画を見直す良い機会でもあります。
美しい庭を維持するための基本的な害虫対策と肥料の与え方について、環境に優しい方法を中心に紹介します。
まずは害虫対策の基本となる方法をご紹介します。
・植物の間隔を適切に取り、風通しを良くする
・マリーゴールドやラベンダーなど害虫を寄せ付けない植物を配置する
・害虫を見つけたら手で取り除くか、強い水流で洗い流す
・石鹸水スプレーや重曹水などの自然派防除を活用する
・鳥や益虫を呼び込む環境を作る
・輪作や混植で害虫が特定の植物に集中するのを防ぐ
・健康な植物を育てるために適切な水やりと肥料を与える
肥料については、有機質の肥料がイングリッシュガーデンには適しています。堆肥や腐葉土は土壌の質を改善し、植物の健康を促進します。
春と秋に施すのが基本ですが、植物の種類によって適切な時期や量が異なります。化学肥料は濃度に注意し、与えすぎないように気をつけましょう。自然の循環を活かした庭づくりを心がけることで、持続可能で健康的なガーデンを維持できます。
イングリッシュガーデンを長期間にわたって楽しむためには、植物選びが重要です。地域の気候に適した植物を選ぶことが基本で、地元で良く育つ種類を中心にすると手間がかからず健康に育ちます。
宿根草(多年草)を中心に選ぶことがおすすめです。ホスタ、アスチルベ、アキレギア、エキナセアなどは一度植えれば数年から数十年にわたって成長します。
また、自然に種をこぼして広がる植物も取り入れると、庭に野生的な魅力が生まれます。樹木や低木も長期的な骨格として重要で、年を経るごとに風格が増し、庭に安定感をもたらします。
植物だけでなく、適切な家具や装飾品を配置することで、イングリッシュガーデンはさらに魅力的になります。ここでは、庭を彩るアイテム選びのポイントを紹介します。
イングリッシュガーデンにはくつろぎのスペースが欠かせません。適切なベンチや椅子を置くことで、庭の魅力を存分に楽しめる空間が生まれます。
まず素材は、木製やアイアン製のものがイングリッシュガーデンの雰囲気に合います。特にウェザリング(風合いが出る)効果のある素材は、時間とともに庭に馴染み、自然な風合いが増します。デザインは、シンプルで上品なものが長く使え、庭の様々なスタイルに対応できます。
置き場所は、日陰や半日陰が快適です。特に夏は日差しを避けられる場所、冬は日当たりが良く風を避けられる場所が理想的です。庭の見晴らしが良い場所や特に美しい植物の近くに設置すると、庭の景観を楽しむ特等席になります。
イングリッシュガーデンは、適切な小物や装飾品によってさらに魅力が増します。小物選びの基本と効果的な置き方について紹介します。
イングリッシュガーデンに合う小物には以下のようなものがあります。
バードバス:
鳥を呼び込み、生き物の賑わいを楽しめます
ガーデンライト:
夕暮れや夜の庭を演出します
テラコッタ鉢:
素朴な風合いが庭に溶け込みます
風鈴や風車:
風の動きを視覚や音で感じられます
古風な水差しや水盤:
アンティーク感が雰囲気を高めます
踏み石:
小道や芝生の中に配置するとアクセントになります
壁掛けのプラントホルダー:
垂直面を活用できます
オブジェや彫像:
フォーカルポイントとして効果的です
小物は「少なければ少ないほど良い」という原則を心がけましょう。厳選した数点を効果的に配置するのがコツです。また、季節ごとに小物を変えると、庭の表情に変化が生まれ、一年を通して新鮮さを保つことができます。小物選びは、あなたの個性を表現する楽しい作業です。
イングリッシュガーデンでは、自然素材を使った装飾アイテムが庭の雰囲気を大きく左右します。素材の特徴と選び方のポイントをご紹介します。
自然素材のアイテムを選ぶ際のポイントを見ていきましょう。
木材:
無垢材やリサイクル木材を選ぶと経年変化を楽しめます
石材:
地元で手に入る石材を使うと周囲の景観と調和します
鉄・アイアン:
錆びた風合いも味わいとして楽しめます
テラコッタ:
素焼きの風合いが自然な印象を与えます
籐(ラタン)・竹:
軽くて移動しやすく、ナチュラルな印象です
麻・綿などの天然繊維:
クッションやタペストリーに適しています
貝殻・流木:
海辺の庭ではアクセントになります
ワイヤー・麻紐:
植物の誘引や結束に使えます
自然素材は時間とともに風合いが増し、庭により馴染んでいくのが魅力です。新品でも使い込むほどに味わいが出てくるので、長く使い続けられるアイテムを選ぶとよいでしょう。また、地域の気候に合わせた素材選びも大切です。
雨の多い地域では防腐処理された木材、強い日差しがある地域では日焼けに強い素材を選ぶなど、環境に適したものを選びましょう。
ガーデニングアドバイザー資格は、ガーデンデザインの基礎知識と技術を認定する資格です。植物の選び方から育て方、ガーデンのデザイン・設計・施工・管理まで幅広い知識が問われます。
植物の選定から土壌管理、病害虫対策まで体系的な知識が身につくため、自宅のガーデニングでも失敗を減らせます。季節ごとの適切な植物管理の方法を理解できるようになり、一年を通して美しい庭を維持する力が向上します。
資格取得を目指す方は、SARAスクールジャパンや諒設計アーキテクトラーニングなどの認定講座で学ぶことができます。これらの講座では、試験に必要な知識を体系的に学ぶことができるでしょう。
イングリッシュガーデンは、自然の美しさを取り入れた庭づくりスタイルとして多くの人に愛されています。整然とした幾何学的な庭園とは異なり、計算された自然らしさを追求することで、四季折々の変化を楽しめる空間を作り出せます。植物選びでは、バラやラベンダーなどの定番に加え、季節ごとに花が咲く組み合わせを意識することが大切です。
レイアウトでは高低差を利用した配置や曲線を活かした小道作りがポイントとなり、小さな庭でも垂直方向の空間活用など工夫次第で素敵なイングリッシュガーデンが実現します。さらに、お手入れを季節ごとに適切に行い、自然素材を活かした装飾品を取り入れることで、より魅力的な庭に仕上がるでしょう。